ガスコーニュ便り

カテゴリ:本棚( 4 )




宮部みゆき『初ものがたり』

推理小説が好きで、国内外問わずかなり乱読しています。宮部みゆきもほぼすべて読んでいるのですが、時代小説のほうは手つかずのままにしてありました。時代小説ならほかにたくさん読みたい作家がいるから、と思っていたのです。先日、夫がパリのブックオフ(あるんですよ!)から電話をしてきて「2ユーロコーナーという素晴らしいものがある」と。手当たり次第にいろいろな本を買ってきてくれたのですが、そのなかに宮部みゆきの『初ものがたり』があり、簡単に言えば捕物帖なんですが、これがもう、かなりよかったのです。
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本所深川一帯を取り締まる岡っ引きの茂七が、子分の糸吉や権三らとともに次々と起こる事件を調査してゆく連作短編集、というといかにも普通の捕物帖なのですが、鰹に白魚、鮭に柿といった、四季折々の「初物」にからんだ謎ばかり、というのがいいのです。そして、稲荷寿司屋を営む謎の親父が出す食べ物の数々がとっても美味しそうで!蕪汁に白魚蒲鉾、柿羊羹に小田巻き蒸し・・・ね、食べたく、いえ、読みたくなるでしょう037.gif

宮部みゆき(1999)『初ものがたり』新潮文庫
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by paloise | 2013-10-07 14:00 | 本棚

髙村薫『黄金を抱いて翔べ』

フランス革命の頃に提案されごく短い期間フランスで実施されていた革命暦というのがあります。
宗教色の濃いグレゴリオ暦を嫌って考案された暦だそうですが、グレオリオ歴に慣れていた人々の生活に混乱を招き、12年ほどで廃止されました。
その暦の月名が、vendémiaire(葡萄月)、brumaire(霧月)、floréal(花月)など、ひどく素敵な名前なのです。日本の旧暦の月名みたいで文学的。

その革命暦において現在の2月、3月はventôse(ヴォントーズ / 風月)と言いますが、その呼び名のとおり、暴力的なまでの風が吹き荒れる日々が続いていました。日本でも春には強風が吹き荒れますが、こちらでも同じこと。そして今日3月20日からはgerminal(ジェルミナル / 芽月)。夫の弟の名前でもあります。春分。芽吹きの季節へと移ろう様子があちらこちらで伺えます。


すっかり本題から遠ざかってしまいましたが・・・ぐうたら日曜日の楽しみにと取っておいた『黄金を抱いて翔べ』を読みました。これも昨年の帰国時に買っておいたもの
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髙村薫のデビュー作だそうで、昨年の秋、井筒和幸監督によって映画化されたものが公開されたのに伴い、書店で文庫本が平積みになっていました。妻夫木聡が主演、というのがいまひとつですが、映像で観てみたいなあ、とは思います。
雑誌で掲載されていたもの、単行本、文庫本、それぞれ結末が変更されているというのも気になります。私の読んだものは文庫本。最終的に著者にとって納得のいく結末が、文庫本のそれなのでしょうか。

大阪の街でそれぞれ異なる人生を生きる6人の男たちが、銀行の地下に保存されている100億円相当の金塊を強奪しようと企てる物語。綿密な計画を立て、必要な品を揃えていく最中、労働運動の活動家、朝鮮の工作員、左翼系過激派など、陽の当たらない場所で暮らしてきた男たちの過去が、さまざまな事件を招き寄せていく・・・

あっという間に物語の世界に引き込まれ、一気に読み終わってしまいました。犯罪小説でありながら男たちの人生そのものを描いた小説で、犯罪の行方よりも、彼らの人生の行方のほうに惹きつけられます。
髙村薫、いままでちっとも読んだことがなかったのですが、読む楽しみが増えて嬉しい!寡作の人らしく、作品の数が少ないので、これからゆっくりと彼女の作品を楽しむつもりです。


髙村薫(1994)『黄金を抱いて翔べ』新潮文庫
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by paloise | 2013-03-20 21:01 | 本棚

エリザベス・ストラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』

昨年の秋頃に一時帰国した際、フランスに戻ってから読むための本を書店で物色していたときに何気なく手に取り購入したら、思いの外好みだった、という一冊です。
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オリーヴ・キタリッジというのは女性の名前。
ぶっきらぼうで率直な物言いが読む者(そしてもちろん作中に登場する周囲の人々の)の心をどきりとさせる、無骨でいてかつ繊細な女の人。
読み進めるほどにオリーヴの人柄に魅了されてゆきます。

短編の連作集で、そのすべてに彼女が登場します。短編を重ねるごとに月日は流れ、彼女も彼女の周囲の人々も、年を重ね人生の様々な場面を迎えていきます。
アメリカの、架空の小さな町での人々と、日常的な出来事とを描いたものなのですが、このように、その土地の風土や人々の心情の普遍性を表現した小説がとても好きです。

ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』(これも小川高義による翻訳)や、野呂邦暢などもそう。
心象風景を綴った作家といえば佐藤春夫ですが、大学生の頃に『田園の憂鬱』を読んだ際には「これが新しい試みだったんだなあ」という感想しか抱きませんでした・・・。

エリザベス・ストラウト、かなり好きになりました。『オリーヴ・キタリッジ』の前に発表された “Amy and Isabelle” と “Abide with Me” を探して原語で読んでみようと思います。


エリザベス・ストラウト『オリーヴ・キタリッジの生活』小川高義訳/早川書房(2012)
原題 “Olive Kitteridge” Elizabeth Strout(2008)
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by paloise | 2013-02-28 20:26 | 本棚

米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

この10年読んだもののうち、私の脳天に最も強烈な印象を残した本。
それは、米原万里の『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』です。
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ロシア語同時通訳者・翻訳者であった米原万里(1950-2006)のこのエッセイは、2002年の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品でした。
当時書店で平積みになっていたことを想い出します。
それが私の米原万里との出会いのきっかけになりました。
視野が広く、知識の泉のような、そして自由な精神を持つこの人のエッセイは、どれを読んでも面白いので、大好きです。


父親が日本共産党員であったことから、1960年から1964年までの少女時代をプラハで過ごし、プラハの、共産党関係者の子どもが集まるソビエト学校に通った米原万里。
30年の年月を経て、当時親しくしていた3人のソビエト学校の級友たち(ギリシャ人のリッツァ・ルーマニア人のアーニャ・ユーゴスラビア人のヤスミンカ)の消息を探し当て再会、その様子を、当時と現在とを交錯させながらまとめたのが『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』です。
級友ごとに書き分けた、3章立ての構成。


級友たちに対して当時抱いていた気持ち、疑問、矛盾、子どもだった彼女には理解できなかったたくさんのことを、大人になって彼女たちと再会することで確かめ、それを通して中東欧のここ四半世紀の大きな流れを描き出し、政治を行う人とその周辺の人々、そして市井の人々の姿を描き出してゆくその手法も、小気味よい文体も、すべてが圧倒的に面白く、ひたすらしびれっぱなし。
しびれっぱなしだけれども、脳みそをわしづかみにされて揺さぶられ続けるような、凄い記録文学です。
何度読んでも非常に面白く、飽きることはありません。


何度読んでも飽きないけれど、初めて読んだときの衝撃は一度きり。
未読の方がいらしたら、その衝撃を味わえるのですからうらやましいのです。


米原万里(2004)『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』角川文庫
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by paloise | 2013-01-29 01:43 | 本棚

ピレネー山脈の見えるフランスの街から三方を山に囲まれた古都に引っ越しました。
by haruka
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